本編
掲載場所
あらすじ
精霊の祝福により生まれた冬の街。その街は現在、シルバーフィールドという名を冠する貴族の技術により、多様な発展を享受していた。しかしその家は、裏にも様々な秘密が存在していたのだった。
双子が個として、自分らしく生きるために、全てを一度終わらせるまでの物語。
登場人物
シルバーフィールド家
- ロッカ=シルバーフィールド
- シルバーフィールド家の子息であり、双子の兄。
- 大人びていてしっかり者。
- セツカ=シルバーフィールド
- シルバーフィールド家の子女であり、双子の妹。
- 好奇心旺盛で、素直なお嬢様。
- ナツヤ=シュミート
- ユウ=シルバーフィールド
- シルバーフィールド家当主、双子の実の母親。
- 自身の知識欲を満たすためには身内ですら利用する。
- フユキ=シルバーフィールド
同行者
精霊
- ヴァル
- ニクス
- 冬の街に生える≪ニヴァリス≫の花を目印に祝福を与えていた精霊だが、シルバーフィールド家の強行により力を奪われ、その存在を消した精霊。
その他
- ハクマ
- シルバーフィールドの内情を何故か知っている、フードを目深に被った者。神獣の力を根こそぎ奪い取ろうとしていた。
世界観解説
文化基準
- 機械文明が徐々に浸透していっており、スチームパンクとサイバーパンクが合わさり、半分になった感のある雰囲気。軽量化するに至るまでというか。
- 成人は16歳だが、運転についてはそれよりも前から習得している子どももいる。
- 双子は機械専門の修理屋として、精霊の主を探しながら世界を転々とするようになる。
シルバーフィールド家
→シルバーフィールド家
冬の街
シルバーフィールド家がある、ほぼ通年雪に覆われた街。家は郊外にあるが、同家の恩恵を多大に受けており、深い雪の中でも普通に生活出来るような技術が使われている。
一月だけ雪が降らない季節があり、それは《祝福の月》と呼ばれ、様々な利益がもたらされる。
ニヴァリス
元ネタはタイトルにもある「スノードロップ=待雪草」。
冬の街で好まれている花。これを目印にして、精霊が冬の街に祝福を与えてくれる(=《祝福の月》)と信じられている。
執行者
冬の街で最近噂になっている話。『神に代わり話を聞いてくれる使者』といった存在と認知されている。
マナ
精霊や幻獣が酷使し、ヒトの生命力となる、魔力とは異なる力。
ヒトは生命力以上のマナを生成することは難しいが、精霊や幻獣の「ヒトに祀られやすい存在」はその願いの力をマナに変換することが可能であり、故に強大な力を持つ。だがその感情にも左右されやすくなり、諸刃の剣となることもしばしば。
貴族章
貴族の中でも選ばれた家のものだけが所持するのを許されているというペンダント。身分、家名が刻まれている。品質等家によって様々だが、やはり貴族の証明というだけあって軒並み高価であり、家によっては想像もつかない金額をかけている。
ロッカとセツカも所持してはいるが、既に没落した貴族の嫡子であるため、旅を始めてからもそのまま首にかけており決して周りには見せないようにしている。2人ともそれなりに着込んでいるほうであり、なかなか目にすることはない。
双子の他、ハルも自分の家のものを着けている。
ネタバレありの軌跡
!!注!! ネタバレ配慮なし
- 基本的には双子とコハクの三人旅。ほかの面子は助けが必要なときに同行してくれる。
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~旅立ち
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- 一連の騒動が片付いたあと、双子が旅に出る直前。ナツヤは双子に、この先の旅で必ず助けになるものとして武器を渡す。ロッカにはフォームごとに攻守特化が選択出来る刀剣、セツカには物理と魔法を選択出来る魔法具を手渡される*1。それぞれ軽く使い方を学び、扱えるようになってから旅に出ることになる。
- この武器の基盤となる設計自体はナツヤではなく、シルバーフィールド家。ただし精霊化計画ではない分野の、公にして生産していたものに過ぎない。ナツヤはこれに独自の改良を加えて製造し、ふたりに手渡している。そのため、プロトタイプ設計であるものを後述のハクマも所持しているが、ロッカのものよりも性能は劣る。
- 暫くはこの近くにはいないほうが良いということで、約二年ほどは冬の街から離れた地域を気ままに旅している想定。なお、後述のハルディスとはこの期間にファーストコンタクトしている。
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~コハク合流
- シルバーフィールドの家が謎の没落を遂げてから数年、成長した双子はとある経路で手にした一般用の移動車両を簡易式の工房に改造し、工学技術で作られたあらゆるものを修理・メンテナンスする仕事を生業として路銀を稼ぎながら、変わらず『セイレイさんのあるじであるカミサマ』を捜して旅を続けているところであった。
- 一般用車両とはいえその大きさは大体キャンピングトレーラー(6人乗り)くらいであり、双子は町と町の間をこれで移動している。イメージとしては燃費が悪いものの簡易キッチンと工房、ベッドが備え付けられており、ナビゲーターAIを実装した小さなオートマトンも同乗しているが、外見は蒸気機関も備えているためアンティーク気味。ちなみに運転は双子がオートパイロット式に改造しているが、一応免許もきちんと取得済みである。
- ある日、とある町に滞在しようと町に入ろうと入り口を探していると、閉鎖された祠のようなものを見付ける。こぢんまりとしたそれは一見普通の祠のように見えたが、兄はなんとなく嫌な気配を感じた、と印象に残っている。町の中に入って周囲の住人に問うと、過去にこの町で祀られていた者の祠だが、今では穢れ切ってしまい、誰も祀る者はいないと言う話を聞く。
- 車両を停め、徒歩でその祠のもとに戻り調べていると、そこにいるはずのない住人に「お兄さん」と声をかけられ、振り向くとでろりと溶けた。住人だと思っていたものは人に化けた魔獣であり、あわや喰われそうになったところを誰かが助けに入ってくる。それは小さな子どもと妙な生き物であり、「早くついてこい」と言われるがままに追いかける。
- 町まで逃げきると、子どもは先ほどとは一転し、おどおどしながら「ここなら大丈夫」と声をかけてきた。一方で妙な生き物は先ほどの子どもと同じ勢いで捲し立ててくる。まるで入れ替わっているような状態に怪訝に思い聞くと、子どもは『コハク』と言う名の幻獣と名乗り、先ほど助けてくれたのはコハクのもう一つの人格であり、今は妙な生き物である『サク』という。この一帯は「だいぶ前*2」に守っていた神獣が突如狂ってしまい、それに影響された魔獣が蔓延っていると聞く。最早神獣に冷静な意識はないようで、災いをもたらすとして住人には怯えられるようになってしまった住人が祠を捨て、双子が立ち寄った町を新しく興したのだ。
- ただ、その神獣も見境なくヒトを襲っている訳ではないはずなんだけど、お兄さんもしかして?とコハクが首を傾げるため、ロッカは肯定する。
- シルバーフィールドの研究の非検体にされたロッカは、特別体が弱かったことに加え一時的に精霊と同等の力を与えられてしまったせいで、力無きヒトを喰らおうとする『人ならざる者』たちに狙われやすい状態となっている。
- コハクやサクも危険が及ばないとは限らないのに、それでもここにいる理由が気になって問いかけると、その穢れてしまった神獣はコハクの父とも言える存在であり、故にヒトを傷付けないようにするため離れたくないと答える。穢れる前は信仰する民に対してとても優しかった頃を知っているだけに、それを傷付けてしまうところを見たくないのだと。
- 思うことがあったロッカが詳しく話を聞くと、どうも狂っている状態でも守護している町に逃げ込めば、彼はまるで興味を失ったかのように追いかけてくるのを止めるのだとか。ということは、その神獣にはまだ『町を守る』という意識は残っている可能性はあり、冷静な意識を取り戻させればまだ元に戻れる可能性はあるのではないかと推論する。だがこのままでは確実に、じきに全てを見境なく襲いかかるような魔獣に堕ちてしまうだろう。
- コハクにその話をしたところ、父を戻せなくとも、せめて万が一にでもこのまま守護していたこの町を壊させるようなことはさせたくない、と頷く。かくして狂った神獣の元へ向かうが、そこには神獣に対して害をなす人間たちがいた。原因を取り除くべく対峙すると、その一団を扇動していたらしき一人がロッカのほうを見て「精霊の成り損ないか」と口にした。
- その者はボロボロの外套についているフードを目深に被っているため顔は分からない。が、翻った外套の下で唯一剥き出しにされている左腕には、自分と同じ跡があることにロッカは驚愕する。
- 引き連れていた雑魚には「ハクマ」と呼ばれている。「アンタは俺だ」と宣う彼は、闇色の左腕でロッカ(の中にいるニクス)を取り込もうとするものの、コハクとサクの機転により免れる。ハクマは「こうなりたくなければ気をつけろよ」とだけ言い残し立ち去ろうとするが、そのとき吹いた風に煽られたフードの下から現れたのは、ロッカと全く同じ顔だった。
- 動揺するものの今はそれどころではない、と神獣のもとへ辿り着くも彼は既に力を使い果たしており、最期に意識を取り戻し消えてしまう。町は平穏を取り戻したものの、恐怖を植え付けた神獣のことを敬う人間がいるはずもなく。ただコハクは恐怖に怯えて生きるくらいならそれで良いんだと思う、と町を離れる決意を固める。そして、最期に父を助けてくれた双子を今度は自分が助ける、と付いていくことにしたのだった。
- 力を継承したとはいえ、コハクは父親とは異なりまだ生まれてまもなく、信仰もない。つまり神格も持たない、『少しばかり上位の力を得たただの幻獣』である。
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小さな生き物との邂逅
- コハクと合流後、まるでドッペルゲンガーに遭遇したように瓜二つな男が気になったロッカは一度、情報がないか探る提案を行う。協力者と連絡を取るために通信を使うことも考えたが、シルバーフィールドとの繋がりを感じる以上は通信機器を使うことはリスクが伴うかもしれない、と用心を込めて直に足を運ぶことに。
- その旅路のとある日、うっかり寝落ちて悪夢を見るロッカの夢に、不意に見慣れない小さな影が映りこんだ気がしていると、たたき起こされる感覚で起きる。見るとリスのようなネズミのような、しかしはっきりは断定が出来ないコハクの正体よりも小さな生き物が自分の上に乗ってこちらを見ていた。一体どこから迷い込んだのだろうか、と思いながら部屋の窓を開くが、その小動物は一向に外に出る気配がなく、むしろロッカの服を駆け上がりちょこんと肩に居座る。
- ええ、と思いつつもそのまま部屋から出ると、可愛いもの好きなセツカはきゃあきゃあとはしゃぎ、コハクとサクはじっと小さな生き物を見るものの特に敵意はない、として受け入れられた。ただ、ロッカもセツカも実際には「なんだか懐かしい気配のような気がする」、コハク・サクもまた「ただの動物というより、自分たちや精霊に近い気がする」という漠然とした感覚は抱いている。
- とりあえずついてこられるのであれば好きにさせるか、ということで満場一致し、その小さな生き物も旅の同行者となるのであった。
- この小さな動物の正体は、ロッカの中にあるニクスのマナが小動物程度の姿を構築出来るようになったため現れたもの。当然話す言葉を持たないため、ニクスがロッカに説明出来るはずもなく、ただ置いて行かれないようにと必死になっていた。また、それまではヒトならざる者が変化してロッカを執拗に追いかけまわってくるという受け身でいるしかなかったのが、これ以降はニクスがキイキイと鳴いて事前に察知するため、多少は身構えられるようになる。
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~ハル合流
- そうして辿り着いた町の一角、それなりに整った区画にあった一軒の家の扉を叩く。すると使用人が顔を出し、『ハル』はどこにいるのかと尋ねるとたまたまこちらに帰ってきているとのことで、出掛け先を確認してそちらへ向かう。同じ街の一角にはスラム街があり、そこで医療活動を行っている20代過ぎの男がおり、双子に気が付くと、ナチュラルな挨拶を交わす。彼こそがハル、ハルディス=クリューソスであった。
- 来るなら連絡をしろと言いつつ、医療活動を他の人間に任せて切り上げ近場の食事処に入る。そこでコハクにハルを紹介しながら、そもそもの出会いの話を語る。
- 出会いは双子が各地を巡る旅を始めてしばらくしてから。クリューソス家を始めとする貴族が統治する管轄の町で、『シルバーフィールドの双子』と気が付いていたハルから声をかけられて話しているところに、魔獣の襲撃に巻き込まれる。安全を確保したあと、自らを怪我人と名乗る貴族の男に絡まれるが、ハルが暗に「知るか、お前よりも重傷な者はたくさんいる」と言い放ち、他の怪我人の治療に向かうのを双子も手伝いに行く。
- その翌日、双子は話があるとハルの住居に招かれる。双子が向かうと先客がおり、ハルと何やら言い合っている模様。会話の内容から彼の家族の一人らしいと推測していると、その相手は吐き捨てるように悪態を吐いて出ていった。ハルは呆れたように溜息を吐いてから、双子へ謝罪しつつ座るように促す。
- 言い争っていたのは彼の兄。先日の騒動にてハルが治療を断った貴族からいちゃもんがあったようで、家名に泥を塗るなと直談判しに来てたと説明。
- そんなことより、とハルは双子に話を促し、シルバーフィールド家で起きた出来事をぼかしながら話す。それを受けたハルは、自身の思惑もあって双子の資金面でのサポートを申し出る――そこから双子とハルの交流は始まった。
- といった話をコハクに話したところで、本題のシルバーフィールド家の話を何か聞いていないか、とハルに問う。ちょうど彼としても双子に連絡しようとしていたと、口を開く。
- ここ最近、地方内の情報屋の中でひとつの噂が持ちきりになっている。人並外れた力を持った者が扇動するとある一団が、精霊や神獣の住処を荒らしているらしい。その者たちを率いる存在らしき特徴が、ロッカと同じ狂化によって具現した、幾何学模様が入った左腕を持つと言うのだ、と。
- 話を聞いた双子は流石に動揺を隠せない。シルバーフィールドの研究資料は忽然と消えたと言われている*3だけに、それが彷徨い至ってどこかの研究者の手にでも渡ったのではないか。
- 情報を吟味した結果、一度冬の街に帰ってみようという結論に至ろうかというところで、突然見知らぬ人間が割り込み、ロッカを見るなり奇声を上げ襲い掛かってくる。住人を傷付ける訳にはいかず、一度ハルディスとともに街を離れた。
- 安全を確認した後、何故襲われたのかを確認する。住人は熱心な信奉者であり、とある地域を根城とする龍神を崇拝している。ただそこで数日前に怪しい人々と哨戒騎士がいざこざになった、という話があったがまさかな……となり情報を集めることに。
- 近隣の街で情報収集をすると、ハルディスの懸念通り、男は自身の信奉する龍神を襲ったのはハクマで、彼と姿が違わないロッカを彼だと思い込み、襲ってきたのだと結論付ける。となると心配なのは龍神のほう、となり、念の為その地域へ寄り道をして確認してみることになった。
- 目的地への道中、ロッカはセツカにヘアバンドを渡される。この先絡まれる確率を減らすためにも、とハクマと同じ髪型でなくしようという提案で、半ば強引に前髪を上げることとなった。ただ、ハルディスやコハクにも好評だった。
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~道中
- 龍神の街への道中で引き続き情報収集を行う中、十代の少女と五十代の老紳士の二人組と邂逅。二人はお嬢様とお付きの執事、ということはなく、コフィルス=グラウことコフィの目的のため、その目的がシバにとって有益であるがための利害一致による同行であった。
- コフィは数年前、かつて自分を救い出してくれた「とある精霊」の気配が断絶したことに気が付いて遠路はるばる帰還し、情報を集めようとしているところだった。その途中でシバと遭遇し、邪魔をしないことを条件に同行を認めている。
- 「シバ=スチュワート」は元研究者であり、精霊の生態について研究している。「スチュワート」は偽りであり、本名は「シバ=リサーチャー」、双子の母親の恩師である。が、その頃から発露していた彼女の異常とも言える思考に危険視した大学が彼女を追放してからは、当人には会っていなかったという。
- 自己紹介をしたところで、コフィはロッカに対して強い口調で問いかける。何を、と返すと、ロッカからコフィが探している「とある精霊」の気配が微かにするのだという。何か知っているのでしょう、と更に詰め寄られようとしたところで、ぴゅい!とユキハ(動物の姿)が慌てたように割って入る。あなた、と声をかけようとしたところで、例の一団らしき者たちの姿が。
- シバとコフィは元々、ここ最近の精霊や幻獣たちに降りかかっている事象に関しての情報を得て、妙な一団が関与していることを突き止めた。そしてコフィが恩人である精霊との関与を疑い、先回りしようとしていたらしい。シバについては、コフィには語られていないものの思考としては彼女と同意見であり、敵ではないと語る。コハクの父のような結果を辿ってはいけない、と一行はひとまず例の一団を追って行くことにする。
- 一団の先導者とやり合ったときのことを共有するロッカに、シバは少し考えてから、それは過去のシルバーフィールド家の研究による弊害の可能性がある、と発言。被験者の子どもと同様の存在を、演算により加齢した姿で出力させる。そのような計画をしていたのを聞いたことがあり、精霊の力をそれに利用させようとしていたと。それを聞いて、ロッカが思い至るのは……。
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〜タツキ合流
- 一団の狙いは、ここら一帯を統治する龍であると推測。コフィルスの既知であるが、あまりにも変人のため要注意、と話を受けながら進んでいる。
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- 再び顔を合わせたハクマに対し、ロッカは説明を求める。意外にも素直に応じた彼は、自身のことを語り始める。何故ロッカと同じ容姿をしているのか――それは簡単であり、ロッカが予想したことだった。『俺はアンタだから』、そんな単純な理由。
- ハクマーーロッカはあの日、彼のことを庇おうとしたセツカまでも両親の知的好奇心を満たすための実験対象にされたが、彼女は目が覚めることなく眠り続けていると言う。実験に利用されたのに何故自分だけ助かったのかと自責の念を強め、両親すらも屠った彼は更に狂化が進み、最早ヒトとは言えない別の何か――精霊に変化してはいるが、精霊でもない――となってしまった。ヒトのものではない、人外そのものの瞳は絶望の闇を湛えており、気を抜くと呑み込まれてしまいそうだと感じた。
- だが、シルバーフィールドの研究成果によれば精霊や神の力を持つ者たちの力を利用すれば、妹を起こせるかもしれない手だてがあるのだという。彼の望みはただひとつ――意識を失う直前、瞳に後悔を浮かべていた彼女への贖罪として、眠りから覚まさせること。そのために必要なマナを、精霊や神霊、幻獣を襲うことで集めているのだという。
- 要するに、ハクマは『ヴァルの助けがなかった場合の末路』の先にいるロッカであり、なお生きることを強要されていることに絶望しきっている。ちなみに、妹が後悔していると思っているのはロッカ同様『彼の思い込み』であり、当然ながら彼女から聞いた訳ではない。
- そこまでを素直に話した理由を問うと、一番最初に言ったことと同じだと前置きして続けられる。アンタは俺だから、同じ選択をするだろうと。だから、ハクマの邪魔をせず大人しくその身に宿す力を引き渡せ、と。ロッカが素直に来るのであれば、今後精霊や神霊を襲うことはしないと約束する。その人ならざるものを引き寄せる精霊の力は、アンタにとっては邪魔なものだろ?と。それに――アンタもだろう、『死にたがり』は。
- ロッカひとりを得られれば、それ以降精霊や幻獣が犠牲になることもない、と語る。それまで黙っていたセツカが、「それは本当に私が望んだことか?」と問いかけると、ハクマは「当たり前だろ、聞かなくても分かる」と返答。それから、二日後にとある場所へ来い、と言い残しハクマは消えた。
- まさか自分の根城で大立ち回りされるとは、と蒼龍は呆れた様子で語りかけてくる。ごめん、とロッカが謝ると、相手は興味深そうに彼を見定め、「本当に申し訳ないと思うのであれば、ぬしのマナを喰わせてくれると有難いのだけどね」と申し出てくる。マナ?と首を傾げていると、コフィルスとシバがその成り立ちと、ヒトがそれを失えば死に至ることを教える。
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ロッカの変化
- 約束の時間が迫る中、一行はどうするかの選択に悩んでいた。罠であることは明らかであり、だが様々なことを知るには、ハクマに問うしかないことも分かっている。故に勝負に出るのか、無視して当初の目的である冬の街へと向かうのか。ロッカは「自分さえ行けば無関係な誰かを傷付けずに済むのでは」と言う事実に無意識で従おうとするが、それはセツカがばっさりNGを出した。
- 幼少の頃から何かと自己を犠牲にし続けていたロッカは、ある意味で自身の未来が続くものとは思っておらず、必ずどこかで力尽きると思っているし、それを望んでいる節がある。「セツカは俺を殺す権利がある」と主張するところ辺りからも窺えるし、ロッカ自身と言うハクマが『死にたがり』と称することも分かる。それは自身が負った両親からの負の遺産、転じて生きながら地獄を歩んでいるような人生を終わらせたいと願っているのもある。例えば、ここでハクマに従わなければどうなるのか。このまま冬の街に行くべきでは。考えることが処理しきれず、ぐるぐると考え続けていた。
- だからこそどこか消極的である反面、セツカの言うことは必ず成し遂げられるともぼんやりと思っており、基本的に彼女の提案には余程危険ではない限り否定しない。もしかしたら彼女の言う通り、なんとかなるのかもしれない、と。
- この思考はニクスによって多少なりとも御されたものではあるものの、本人のそもそもの性質も合わさっている。矛盾した望みを持っていることは重々分かっており、どうして答えを出そうかと考えている。
- ドアのノックが聞こえ、相手はハルディスで、ちょっと散歩に付き合えと言う。ふたりは無言で外に出たが、宿屋から暫く離れた広場のところで、ハルディスが唐突に足蹴を繰り出す。唐突のことで驚きながらもガードしたロッカだが、張本人はあっけらかんとした調子で手合わせをしよう、と挑発してきた。
- 「お前、なんか余計なもんまで考えてやしないか」と。何故、と驚いていると、双子揃って顔に出やすいことを指摘される。言ってみろよほれほれと促されるが、それを望んでも許されるのか、と考えていると返す。すると、逆に何故駄目だと考えるのかも教えろと返され、それを是とは思わないとハルディスに諭される。仕舞いにはアンタに何が分かるんだよと一度キレかけそうになるが、「ひとつだけ分かるのは、お前がまだまだ子どもだってことだな」と子ども扱いして流された。
- 再会してから三年、双子と関わってきたハルディスだからこそ分かる、二人の息があっているようでギクシャクしたずれ。互いを片割れだと宣っておきながらその実、決して近付けようとしない領域。それは、ハルディス自身にも覚えがあった。お前ら、事件の後本気でぶつかったことあるのか?という問いに、ロッカはギクリと図星を突かれた表情をする。
- ハルディスとしても、ロッカの境遇を知っている以上何故そんな思考に至るのかは把握している。だが、今後彼の幼少期のようなことが再び彼の身に降りかかることはない(させるつもりもない)以上、そのままでいることは今後誰かを傷付ける可能性を孕んでいるぞと忠告のつもりである。
- この先を選択する前に、セツカに確認しなければならないことがある。ただ、これまで幾度となく尋ねようと思っていたが、一人ではいつも土壇場でヒヨって聞けないでいること。ハルディスの目には、明らかに苦悶の表情を浮かべているように見えた。聞けない理由と、それでも聞くべきではあると思っている旨を聞き、ハルディスはそれなら逃げ場は塞いでおいてやるから、お前は男らしくビシッと訊ねて来いと提案する。あと少しの勇気が足りなかったロッカはその申し出で腹を括って頷いた。
- セツカに声をかける。彼女にあの日から自分の中で燻らせていた「自分を庇ったせいで人生がまるで変わったことを後悔しているか」という問いを真っ向から否定されてようやく、自分がそうであろうと思い込み、彼女のことを真正面から見ようとしてこなかったことに気が付き、吹っ切れるようになる。
- 自分のあり得たかもしれない可能性を阻止し、終わるためではなく、また始めるために、ハクマが指定した場所へ向かうことを告げる。
- ここでようやく、ロッカの目的が「贖罪を遂げ、自分を終わらせること」から、「未来を生きるために、普通に戻ること」へと変化。
- ハルディスのもとにコフィ、シバが歩み寄る。優しいのね、と声をかけられ、自分のようにはなって欲しくないからな、とハルディスは語る。また、見ててもどかしくもあるとも。
- 過去に、きょうだいのうち長兄と長姉とは分かり合えなかった経験を持つため、きょうだいで分裂するようなさまは見たくないと思ってのこと。
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家との決着
- 指定された場所に向かうと予想に反して何もなく、ハクマが付いてこい、と中に入っていく。遺跡の地下に隠された実験場。岩肌にめり込むようにして存在する人工物、機械の多くは錆びつき、最早起動することも出来ないが、その形状に双子は見覚えがあり過ぎた。それらはシルバーフィールド家にも存在した、ロッカを苦しめたものと同質のものであり、デスクに納められていた貴族章から、ここが自分たちの家の研究室と同じことを実験されていた場所だと推測する。
- 先に進んでいた姿を捜して更に奥へと進むと、一際大きな装置の前で佇んでいる彼を見つける。
- ここを知るのは最早俺だけ(『あの日』以降にハクマが突き止めた情報のひとつであるため、ロッカは知らない。)、と外套を揺らめかせたと思うと、左腕が膨張したかのように現れる。ハクマは自身の力の素でもあったニクスの精霊力ですらロッカを殺して奪うつもりであり、またここでアンタらを殺せば誰も知ることはないとし、全力で襲いかかってくる。
- 同一人物故にハクマは痛いところを突いてくるが、ふたりで決定的に異なる「ヴァルとの邂逅の有無」、「妹との本音の会話」によってロッカはその揺さぶりにも耐えるため、逆にハクマのほうが揺さぶられている形になり、最終的に力ずくで精霊のマナ共々ロッカを取り込もうとする。しかし何故かそれも叶わない。
- 「俺の想いよりも、アンタのほうのそれが強いってことか」「違う。アンタも持っていたはずの強さだ……ただ、アンタが手に入れられなかったもの」
- ロッカがハクマにトドメを刺そうとしたとき、セツカが鋭い声で制止する。最早動く力もなく倒れたハクマの元にセツカが駆け寄り、「お疲れ様、アンタはもう眠って良いのよ」と声をかけると、その形を失い光の球体となる。そしてロッカの隣にいた小さな生き物に吸い込まれたかと思うと、突如として少年とも少女とも取れない子どもに変化し、コフィが声を上げる。子どもは面識のない面々に、自分こそがロッカとハクマに込められた力の持ち主である冬の街の精霊、ニクスだと名乗る。自身を纏うマナが枯渇して小動物の姿にしかなれなかったが、ハクマを形成していた膨大なマナを利用して人型になれた、と語り、謝罪を口にする。
- 『ハクマ』という存在は、ニクスから離れたマナがシルバーフィールドの者の悪意に感応し生まれた虚像であり、またそれこそが彼らの目的であった。ロッカが繰り返し見る悪夢のように、演算された結果の『ロッカ=シルバーフィールド』をニクスから離れたマナが再現してしまい、まるでひとりの人間のように存在していたのだと言う。
- 顕現は出来たものの、ニクスとロッカは未だ同調状態にあり、ロッカ自身がハクマのようになる可能性も残されたまま。どうにかしてオレが離れられると良いんだけど、と頭を悩ませるニクスに、タツキがツッコミを入れる。「同じ元素精霊に転身すれば良かろう」と。要するに、ニクスは長い間ロッカと同調しているためヒトであり精霊のような状態になっているが、精霊の力を借りれば新しい元素精霊として生まれ変われるのでは?ということ。同じ精霊、しかも並大抵の力では到底無理であり、強大な力を持つ者ならなお良し。そう提示され浮かぶ者など、一人しかいなかった。まるで用意されていたかのように、そこにぴたりと当てはまってくる人物――ハクマとは出会わなかったが、ロッカとは関わりを持った神格持ちの精霊、ヴァル。彼しかいない。
- 自分が生きるために、自分を蝕む精霊の力を断つことは絶対に必要。だがそのためには、ヴァルに協力を得なければいけない。だが、それはあくまでもロッカ自身の希望である。精霊にとっての罪を犯した者たちの子である自分に、そんなことを、彼に乞うても許されるのだろうか? セツカたちは協力してくれそうな精霊について話していたが、並大抵の精霊では不可能なことは明らかだ。ロッカだけが知っている、適正な人物……そこへタツキが口を挟み、それを開示しろと要求。上位存在の思考の一端を教えられる。案外タツキと思考は似ており、故に同族嫌悪にも似たところがある。ヒトが、自身の限界を越えようとする姿を見ているのが楽しいのだと。それって単にヒトの足掻く姿を見て笑っているだけでは?と突っ込みつつも、ならば自分にも出来ることはある、と意を決する。
- ちなみにタツキは、双子の背後にヴァルが絡んでいることには気が付いている。そのためロッカが言えないのなら言うつもりではあった。
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~旅の終わり
- 冬の街に戻った一行は、事前にナツヤに連絡を入れようとするも、音信不通。やむなく彼が現在借りている一室に赴くと、机の上に置かれた手紙以外はもぬけの空。その手紙を開けると一文だけ、『始まりの場所で待っている』。
- 始まりの場所、すなわちシルバーフィールド邸跡。
- 双子の前に現れたヴァル、ロッカに対して「罪の清算の機会を与えよう」と、あの夜にも見せた周囲から空間を切り取る結界を展開。「君がこの旅で得られたものを見せてもらおうか」
- セツカが銃を構えながら間に入る。「ロッカが得たものと言うのなら、この旅で築いてきた数々の信頼も含まれるはずよ。そしてこれは、ロッカの願いではなく……ただ、私が隣に立ちたいだけ!」
- 後少し、ほんの少し力があればと願ったとき。ふと隣から気配を感じて触れてきた手の主は、あのハクマだった。「俺達の未来を奪った覚悟はその程度だったのか?」煽られた兄は否定するものの、限界は近い。「……全く、出来るなら最初からやれば良いものを」
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年表
8歳 | ロッカがユウによって研究の被検体として扱われるようになる。 |
10歳 | ロッカは相変わらず体は弱いままだが、ヒトではない何かの声が聞こえるようになっている。 |
セツカはこの段階でユウから家を継ぐのはお前だと告げられている。 |
世話人兼教育係として、本来来るはずだった人物に成りすましたナツヤが家に紛れ込む。 |
11歳 | ロッカに対する研究は続いており、精霊の力が彼自身を侵食している状態。 |
セツカは何も知らないままロッカとともに家を継ぐための勉強が始められ、教育係としてナツヤが割り当てられる。 |
12歳 | ヴァルによってシルバーフィールドの家が暴かれる。 |
ナツヤの助言もあり、しばらく冬の街を離れて旅をすることになる。 |
13歳 | 故郷から少しばかり離れた地にてハルと出会う。このときハルは18歳。 |
16歳 | 立ち寄った町で人ならざる者に襲われるが、コハクに助けられ対話する。 |
コハクを交えて旅を再開する。 |
| (思考中) |
17歳 | ヴァルと対峙。 |
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なお、この武器は特殊な力で刻まれているため人間には認知できないヴァルの刻印が刻まれている。これはほとんどの精霊なら感知出来る所有印に似たものであり、手を出そうと思う精霊はほとんど存在しないのだとか。
「だいぶ前」と言ってはいるが、言っているコハク本人は外見以上に生きているため、実際には数十年単位である。
ヴァルがすべて燃やした、というのはロッカだけが知っている。