その覚悟さえ、私は

「天王寺に話をつけに行くだって!?」

その表情は、普段の軽薄な笑顔を浮かべているあの人だとは到底思えないものだった。
びくり、と体を震わせ、ああ、やってしまったのだと自分の意志の弱さを痛感する。

「何で…何でそんな事を、俺達に黙って……!!」

机に拳を叩きつけ、彼――山吹日明さんはギリィと犬歯を露わにして歯軋りをする。それを向けられる事をしたのは、私だ。

「何で止めなかった!? 天王寺は敵だ、マスターがひとりで向かえばどうなるか明白だろうが!!」
「ちょっと、日明っち! 花が悪いみたいに言うなら、リシアだって黙ってないからね!」

ばっ、と私と日明さんの間に割って入ったのは、リシア・コッポラさん。どこかハルちゃんみたいな雰囲気を持った彼女は、日明さんの剣呑な瞳に怯む事なく睨み返している。
あわあわする事しか出来ない自分が、もどかしい。私はただ、

「二人とも、ストップ」

天の声とはまさにこの事。
声の主である彼――村崎十織君は、ドアの入口に背中を預けこちらを見やる。

「菜野さんを責め立てるのは賢くないな。マスターは、言えば反対されると分かってたから黙ってた。それくらい、あなたでも分かるでしょう」
「……っ」
「今出来る事は――マスターの後を追う。でしょう?」

日明さんは暫く身体を震わせていたけど、やがてジャケットを手に取り駆け出した。直前にドアの正面から避難していた村崎君は、やれやれと肩を竦める。

「あ、あの……っ」
「お礼ならいいよ。それより、行こう。マスターが心配だ」
「うん、喧嘩してる場合じゃないもんね。花、行こう!」

慌ただしく日明さんを追いかける村崎君とリシアちゃん。私も、心の中を支配する漠然とした不安に突き動かされ、彼らを追いかけた。

落ち着いたら、ちゃんとお礼を言おう。
そう心に決めて。

   ■   ■   ■

「ゲームオーバーだ、ジュエルマスター」

凶悪極まりない笑みを浮かべた天王寺の手には、一体何処から盗って来たのか拳銃が握られていた。
体は動かない。やはり、ひとりで乗り込むのは無理があったか。

「何か言い残す事はあるか?」

慈悲のつもりなのだろうか、拳銃を弄びながら見下ろされる。
本当に――コイツには、困ったものだ。

私は口元を歪める。
不思議と恐怖はない。記憶もなく、家族もいないのだ。
ああ、でも――。

「ない。殺せ」
「フン。哀れだな」

中途半端に想いを残せば、彼らが悲しむ。
それだけは嫌だな、と思い――

私の意識は、そこで途切れた。

   ■   ■   ■

勇愛マスター、カナリア死亡。
このあと日明達が到着し、辛くも征人を殺すが世界がジ・エンド。

にしてもカナリアさん男前(笑)