クリスマス時期SS

「真っ赤なおーはーなーのー、トーナカーイさーんーがー」
「……お前、よく歌う気になるよな」

目の前を歩く腐れ縁の少年に、呆れた表情で声をかける。同時に吐き出された吐息は白く、寒さを感じて首元の青いマフラーを引き上げた。

「いや、何か歌いたくならね? こういう景色を見てたらさぁ」
「ならない。サンタクロースなんてのは、玩具業界が利益を上げるために広めた戦略だ」
「夢がないなー、悠斗は」
「言ってろ」

四六時中能天気な奴の頭は理解出来ない、と眉をしかめる。

これが現実世界ならまだ分からなくもないが、ましてやここは、朝が訪れる事のない世界。
暗い空に、気味が悪い程の赤い雲が浮かんでいる。大地は痩せこけ、どこまでも荒野だ。

いつもそんな景色しか見せていなかった世界だが、最近、ひとつの変化を起こしていた。

「にしても、この世界でも雪降るんだな。まぁ、雨が降るんだから当たり前か」

雪が溶解したものが雨というメカニズムは知っているものの、この世界の気温の変化を良く知らないので、そんな感想を口にする。

そう、雪が降っているのだ。
誰かが初雪だ、とはしゃぎ始めたのはいつだったか。

そんな事を考えていると、前を歩く相手はくるりとこちらに振り向き、何だよそれ、とへの字に曲げた口を見せる。

「そんな難しい事考えないでさー、この雪にテンション上げようぜ? 現実世界と同じ雪じゃん! 懐かしいじゃん!」
「現実世界で見たかったよ」
「そりゃそうだけど!」

そういえば、そろそろ十二月に入る時期ではないだろうか。
昼夜の判断が付きにくくはあるが、奇跡的に動いている携帯端末(ただし電波は入らない)や、腕時計の時間で大体の経過時間は把握している。自分の時計はアナログだが、他の奴のデジタル時計は日付を表示出来るものもある。

この世界に来てから、早くも月単位の時間が経過していた。本来ならば、翌年から始まる受験などの準備に取りかからねばならない時期。
いつになったら、元の世界に帰れるのだろうか――そんな事を考えながら、大地を踏みしめた。

――りん。

「ん?」

ふと、鈴の音がした気がして周囲を見渡す。
薄暗いようなそうでないような荒野は、見張らしは良い方だ。自分達以外のなにかが動いていればすぐ分かると思うが、視界にそれらしきものは見当たらない。

   ■   ■   ■

ここまで書いたところで、時間的に余裕がなくなり断念してました。
折角なので供養。