終結世界(白夜さんとコウ)

「ここが、終着点、か」
「うぇ?」

果てしなき青が周囲を包む、広大な空間。
そこに座っている唯一の人間に、俺は声をかけた。
彼とも彼女とも取りにくい相手は、自分の他に誰もいないと思っていたのだろう――振り向き、目を丸くさせて、笑った。
セイバーの誰とも違う気配を宿す、人間。ならば、相手が何者なのかという答えは一つ。

「初めまして。別世界の《俺》、かな?」
「多分。初めまして、別世界の《わたし》」

向こうも同じ事を思っていたらしく、頷くとまた空を見上げた。
俺は相手の隣に腰を下ろし、同じ方に視線を向ける。

「綺麗な青、だよね」
「うん。あの世界では見れなかった光景って奴かな」

でも、この色があるという事は知っていた。俺が使っていた浄化の光の色に似ているし、それに――。

「もっとも、わたしの世界にはこの色に似たものを持つ人がいたけど」
「……それ、もしかして悠斗じゃない? 蒼井悠斗」
「あ、正解です。脱走すると、必ずお説教喰らいました」
「どの世界でも一緒だなぁ……」

思い浮かべていた仲間の相変わらずな行動に苦笑を浮かべ、ぼす、と寝転がる。

「そちらの世界は、上手くいった?」
「さぁ、なぁ。ただ、裏で動いていた灰敷も、星喰いも、全て浄化した……はずだから、多分大丈夫じゃないかな」
「それは良かった」

俺の言葉に嬉しそうに返し、だが相手は顔に影を落として続きを口にする。

「わたしの世界では、たくさんの仲間が犠牲になりました。荊棘さん、藍馬のお兄さん、神崎さん…………他にも、たくさん」
「……世界を、救えなかった?」
「んー……いえ、物語は無事救えたよ。ただ、代償が高いだけで」

疲れたような声音、遠くを見る瞳。それだけで、相手がどれだけ力を尽くし――だけど、運命に抗えなかったのかを察した。
こういう時、余計な言葉は相手を傷付ける。だから、

「そっか」

とだけ、返した。

時折思い出したかのように、互いのセイバーの話をするだけ。
一時間なのか、それとも一日なのか、時間の感覚が薄れた世界で、俺と相手はひたすら空の青を眺めていた。

「――わたし達は、セイバーのみんなのように転生とかするのかな」

唐突な話題。
発したのは相手の方で、真剣なのか、ただの暇潰しの話題なのか判断がつかない表情をしていた。

「さぁ? 少なくとも、俺は……」
「するのだったら……今度は、この空をずっと見ていたいなぁ」

俺の台詞を遮り、相手はぽつりと願いを口にする。
叶わない願いなのは分かっているだろう。それでもなお口にさせたのは、恐らく。
無理に続きを口にするのも憚られ、俺は同感、とだけ答えた。

「――ん、うぇ? あ、」

ふと、相手は何かに気がつき立ち上がる。んー、と猫のように思い切り体を伸ばし、くるりと顔をこちらに向けた。

「役目を終えたマスター達が、まだまだここに来るはずなんだけど……どうも、わたし達は彼らに会えないみたいだね」
「ん? ……あ、はは」

上半身を起こし相手を見、気がついた。
手が、足が、空と同化し始めている。自分の体も似たような現象が起きている事を確認し、立ち上がった。

「消える前に、アンタに会えて良かった。俺のやってきた事、最後に誰かに話せたから」
「んー……わたしも消えるから、貴方の生きた証とかは残せないよ?」
「構わないさ」

話す行為が出来ただけでも儲けものだと、俺は笑う。

「もし、また生が受け取れるのなら……どこかで会えたら良いな」
「うぇ? ――うん、そうだね」

有り得ないと分かってはいても、願う権利位は俺達にもあるはずだ。在り方がどうであれ、あの世界に存在していた人間ではあるのだから。
相手は困ったように笑い、頷いた。

「……じゃ、お疲れ。また、どこかで」
「うん。お疲れ様でした」

それが、俺が相手と交わした最後の言葉になった。

果てしなき青は、ふたりの《人間》をゆっくり呑み込んでいき――
やがて、何でもなかったかのようにそこに在り続けていた。

END

   ■   ■   ■

勝手にバッドエンド終わりのまるもちさんでした。
このあと、他のみんなのマスター達がこの世界に現れたり。