闇に堕ちた光01

「カザよぉ」

ゆらり、と。
まるで力の入っていない足取りと、それを物語るかのような、気の抜けた台詞。だがそれは見かけだけで、相手の内なる殺気は静かに燃え広がっている事を、風間は知っていた。
柱間の顔は、暗がりの影に遮られ、はっきりと見る事は出来ない。なのに、体が恐怖に震える。

「お前の信じるマスターが絶対に正しいって保証も、ないだろ?」
「……っ。でも、黄太! お前のマスターよりは、」
「分かんねぇぞ?」

からんからん、と乾いた音が、路地に響き渡る。柱間が引き摺るように持つパイプが、まるで死神の鎌のようにも見えた。
あ、これは殺る気だ。完全に。
この相手とは長い付き合いだと思っている風間は、とても認めたくなかったが、そう確信した。

「お前のマスターだって、人格がある。人格がある以上、善にも悪にも転がっていける」
「それは……っ!!」
「ま、んな事はどうだっていい。……別に、お前に俺の事情を納得して欲しい訳じゃねぇんだ。ただ俺は、蒼井の奴に『誰もここを通すな』って言われてるからな?」

一歩、また一歩。進むごとに、柱間の身体は光を帯び、変化させる。
そして、影から現れた姿は、完全に《セイバー》としてのそれであった。パイプが棍へと変わり、風間の良く知る格好とは少し異なっているが、彼は確かに《柱間黄太》その人であった。
ようやく見えた表情は、いつも通りの気の抜けたそれで――だが瞳だけが、剣呑に揺らいでいた。

「さっさと変身しろよ、カザ。でなきゃこのまま、お前を動けなくなるまで殴り飛ばすぞ」
「――蒼井もお前も、とんだ馬鹿野郎だ!!」

間違っていると分かっていて尚、二人が考えた末に選んだ道だと言うのなら。
誤った選択を、正してやれるのは。

――止められるのはきっと、自分だけだ。