はじまりのとき

目を開ければ、そこは夜だった。

幾多の輝く光こそあるが、それらはぼんやりとしていてはっきり見る事は出来ない。明かりはあるのに暗い、と感じるのも妙な話だ。

いつからそこにいたのか、何処から来たのか。
全く、思い出せない。

むくりと起き上がり、周囲を見渡す。
塗り潰された暗闇の遥か向こうに、吸い込まれるように続く地平線が見えた。

「――お目覚めですか?」

突然かけられた声。
振り向けば、いつの間にか自分の後ろに女性が立っていた。
会った事はないはずなのに、何故か心の奥底で懐かしさを感じる。だがいくら思い返しても、その記憶を思い出す事は出来なかった。

彼女は頭を押さえる自分を見て、眉尻を下げる。苦痛を堪えているような、悲しんでいるかのような、とても悲しくなる表情をしていた。
何故自分がその仕草をするだけでそんな顔になるのか、分からない。

どうして、そんな顔をしているの?
問いかけると、彼女は緩く頭を振って口を開いた。

「――私の名前はオーブ。今この時より、私はあなたの下僕となり付き従いましょう」

返って来たのは、そんな的外れな言葉。先程までの表情は一瞬で消え失せ、無表情とも言える眼差しで自分を見据えてくる。
オーブ。おーぶ。
彼女の名を繰り返してみるが、やはり、自分の中にその記憶はないようだった。

「あの、夜を流れる星をご覧になりましたか?」

彼女が指し示す空をつられて見やると、またひとつ、一際輝く星が流れた。一瞬の軌跡が、ふっと消滅する。
何だろう、同じ輝きをどこかで見たような気がする。宝石ではなく、それよりももっと眩く、力強い輝きを放つもの。

「まるで宝石のようだと思いになったのではないでしょうか?    そう、あれは宝石なのです。人の欲望に牽かれこの星に墜ちた石――名を【星宝石】と言います。石は人の願いを叶えます。しかし願いは石を汚し 何時かは災いを呼ぶでしょう……」

星宝石、願い、災い。
それらがキーワードとなり、自分の心に悲しみが生起するのを感じた。
自分が何者かすら記憶は思い出せないというのに、それだけで揺らぐ感情は、一体何なのだろうか。
オーブの静かな声は、やがて闇に吸い込まれ、消えていく。

「――あなたにお願いがあります。全ての星宝を集め、浄化をして欲しいのです。かわりにあなたの願いを叶えましょう。あなたには、その資格があります。そしてどうか、」

彼女のその願いを、受け入れろ。
誰かが自分に、そう言った気がした。

   ■   ■   ■

そして浄化の儀を行う事となり、荊棘さんがいた学校へと向かうのです。
うちは初めのセイバーが荊棘さんなので、こんな形になりました。