【銀魂】紅桜2

「大丈夫? 怪我」

自分で斬られた腕を手当していると、退が気遣うような言葉を投げ掛けてきた。私は口にくわえていた包帯を放し、「まぁ一応」と返す。

「なら良いけど。スオウって無茶ばかりするから、気が気じゃないよ」
「それは悪ぅござんした。あ、退ちょっと結んで」
「はいはい」

私の指示通りに動く退。
実は何時だったか、私が監察の仕事を習いたいと言った時に懇切丁寧に教えてくれた縁で彼とは仲が良い。その時に散々「敬語ヤメロ」と言ったせいか、隊内で敬語を使う退が唯一タメ口で話すのが私だ。

「にしても、人斬り似蔵がいるなんて……もしかして、スオウが非番取ったのってこれが目的?」
「ん、まぁね」
「気を付けなよ、次はこれじゃ済まないかもしれないんだから」
「分かってる」

そう返しつつ、私は退に内心謝罪した。
似蔵が持っていた刀。確かに妖刀紅桜と言った。そう同じ名前の刀があるとも思えないから、間違いなく銀が探していたものだろう。
それを取り返すとなれば、怪我は免れ――……いや。

刀に血を吸わせる為に、誰かが銀にそんな依頼を持ち掛けたとするなら――。
そして、似蔵の裏に潜む奴を考えるなら――。

「はい、出来た」
「サンキュ。じゃ、私行くわ」
「え、危険だよ! スオウは屯所に戻った方が」
「今日明日は非番なの。どうしようが私の勝手」

きっぱり言い放つと、私は立ち上がり彼に背を向けた。

まさかと思った時程当たってる事が多い
(銀、桂、無事でいろ……!)

   ■   ■   ■

翌日の朝、私は紙を見ながら埠頭への道を歩いていた。

「ふむ……」

書かれているのは、随分簡略化された地図。神楽が万事屋に届けさせたもので、新八君から許可を得てコピーしたのだ。当の神楽は、まだ帰ってきていないらしい。
案の定銀も似蔵に斬られ、まだ目を覚ましていなかった。新八君は銀が起きてもこれを見せるつもりはなかったみたいで、彼もどこかへ出かけると言って別れた。

と今までを振り返っていると、いつのまにか目的地に到着。馬鹿デカイ船は一見変哲ない貨物船に見えるが、その周りには攘夷志士がたくさんうろついている。面倒臭ぇ。

「さーてどうすっかな」

中に入るまでには、確実に奴らに見付かる。どうにか目を逸らさせる方法を考えていると、ドォン、と何かが爆発する音が耳に届いた。
見れば船が襲撃されている。あれは……何か見覚えがあるが、まさかな。
ともかく、チャンスには違いなかった。私は周囲を用心しつつ、一気に船の中へ走る。

「よし」

誰にも見つかっていないのを確認し、目の前の廊下を見る。襲撃があった方に攘夷志士は行ってしまったのか、やけに静かだ。
取り敢えず上に行こう。何とかと馬鹿は高い所が好きとか言うし(あ、間違えた)。

ふと、微かに廊下の向こうから足音が聞こえた気がして身を隠す。息を潜めて様子を見ていると、違和感に気が付いた。
これ、草履の音じゃねーよ。草履がペタペタとか気の抜ける足音立てるか。
そう思ったがじゃあ誰なんだと疑問に思いかけた頃、私が隠れた廊下の前をそれが通った。
通った瞬間噴いた。

「おま、エリザベス何してん」

足音の正体、エリザベスは私に気が付いて『!?』と書かれたプラカードを出した。くそ、緊張感台なし。

「何でここにいるの」
『お前こそ』
「神楽と桂と妖刀捜してたら迷い込んだ」
『妖刀?』
「銀が探してた妖刀、似蔵が持ってたんだよ。そんで昨日から帰ってない神楽が最後に残した地図を頼りに来たら、ここにいた」
『リーダーが帰ってないだと?』
「あぁ、新八君に聞いた。ちなみに銀は似蔵にやられて療養中」
『…………』
「落ち込むな、お前男だろ。ナリが私より綺麗でムカつくけど」
『?』
「何阿呆な事してんだってんだよ、桂。エリザベスは神楽をリーダーとは呼んでないだろ」

しばらくの沈黙。まさかバレてないと……いや、コイツなら思ってても可笑しくない。
というか気配も微妙に隠れてないんだって。そういうのに敏感な、例えば銀とか夜兎の人なら多分直ぐ分かるって。

「……スオウ。何故分かったのだ?」

…………。
お前馬鹿だろやっぱり。

馬鹿な友人持つと苦労する
「お前いっぺんやられて来い」
「何!? 酷いぞスオウ!!」
「うっさい(心配して損した気分だわ)」

   ■   ■   ■

何故かエリザベスに扮していた桂と合流し、私は甲板へと急いだ。爆発音はやはりそちらの方ではないかという桂の話に従い(信用出来るかどうかは別として)、着ぐるみを着たままの奴と並走する。

「つーか走りにくくないか、それ」
『大丈夫だ』
「なら良いけど」

詳しい事は聞く暇がなかった。何故隠れていたのか、何故知り合いの前から姿を消したのか、色々あったのだが『後で話す』の一点張り。
まぁ、何だか騒動になっているようだから良いけど。

甲板に出たら、どうやら船を浮上させていたようでたくさんの物や人が片側に偏っている。あーあ、片付け面倒そうだよねあれ。
その中に知った顔を見付け、私は声を上げた。

「新八君!?」

彼は脇目も振らず、船の破損した箇所に真っ直ぐ走っている。まさか飛び降りる気かと危惧したが、どうやらそうでない事は彼の表情と神楽ちゃん、と呼ぶ声で分かった。
直ぐさま助けに向かおうとすれば、近くにいた超ミニスカな着物を着た二丁拳銃を持つ女性に阻まれる。《赤い弾丸》か。

「エリザベス!」

私がまた子の放つ銃弾を斬り捨てつつ呼べば、『任せろ!』と書かれたプラカードを出しながらエリザベスが走る。拳銃は使わない、防御をするだけで良い。
彼らの元に到着し、私はまた子と対峙、彼が新八君を助ける。新八君はどうやら宙に放り出された神楽を助けようとしていたようで、エリザベスの助力により無事に成されたようだ。
ふぅ、と息を吐いた新八君は彼に礼を告げた。

「こんな所まで来てたんだね、ありがとう」

――!!!!

その瞬間体中に走る、悪寒。
それと同時に感じた気配、間違いない。

気配はズバァ!とエリザベスを斬り、静かに刀を鞘に仕舞った。無気味に嗤う口元が、余計に恐怖を煽り――もう昔の彼ではないと、嫌でも感じさせられた。

「……おいおい、何時の間に仮装パーティー会場になったんだ、ここは? ガキが来ていい所じゃねーよ」
「エリザベスううぅ!!」
「晋……!」

あぁ、呆気ない再会だな。
私は刀を構えながら、ぼんやりそんな事を思うのだった。
新八君は、斬られたエリザベスを心配している。

「よォ、スオウ……。相変わらず、綺麗じゃねぇか。ガキじゃなくお前なら、喜んで迎えたって言うのになぁ」
「ガキじゃない……」
「!?」

私に猟奇的な笑みを向けられたとほぼ同時に、エリザベスの布の残骸に隠れていた桂が刀を抜きながら現れた。あれれ、今気が付いたけど髪どうしたんだ?

斬られた晋は避けた反動でしゃがんでいるものの、腹に赤い線を作っている。私も(捜していた桂がエリザベスに入っていたという事実に驚いているのと、拘束されていて)動けない新八君と神楽を守るように立った。

「桂だ。それと、貴様の組織なぞにスオウが行くものか」

変わった友人なんて見たくなかった
「何、その髪型」
「今は関係ないだろう」
「長髪の時よりも男らしく見えるね」
「全くだな」
「貴様ら何故意見が合っている!?」