【銀魂】銀時と

カンカンカン。

今日は珍しく仕事があった。俺は馴染みの大工のジジィの頼みで、屋根の修理をしていた。
ぶっちゃけタリィったらありゃしねぇ。適当に終わらせて引き上げるか、と顔を上げる。
と、何故か目の前の資材が転がって今正に下に落下しようとしている所だった。
慌てて下を見ると、そこにはムカつくあんちくしょう共。でも一応教えてやるか、と口を開く。

「おーい兄ちゃん達、危ないよ」

忠告してやったにも関わらずギャンギャン五月蝿いので、俺は仕方なく梯子で下に下りてヘルメットを外した。つーか人のテンション指摘する資格、お前にはねーよ。
ざっと奴らを一瞥すると、ふと見慣れない姿があるのに気が付く。いや、見慣れた……ん? あれ? 他人の空似……か?

だけどあっちも俺に驚いているのか、だが慌てて多串君と総一郎君には見えないよう口元に人差し指を立てる。言うな、という意思表示であるのは、馬鹿な俺でも分かった。
という事は、紛れもない本人。

……生きてたのか。

ふ、と僅かに笑みを零し、俺はジジィに呼ばれたので屋根の上に戻った。話をしたかったが、また直ぐにでも会えるだろうと意味の分からない自信を抱えながら仕事を始める。
真選組の服を着ていたから、屯所に行けば会えるしな。

数日後、万事屋に客が来た。
新八が「はーい」と出迎えに行けば、驚いたような声を上げて何かを話しているようだったから何となく見に行った。そしたら、そこにいたのは隊服を身に纏ったスオウが立っていて。

「あ、銀さん」
「よ」
「よ、じゃねーよ。相変わらず死んだ魚の目してやがって」
「うっせ、いざという時にキラめくのお前知ってんだろ」
「さぁな」
「え、知り合いですか?」

新八が、更に驚いて口を挟んできた。確かに珍しいだろう、俺がこんなに当然そうに誰かと話しているのが。つーか相変わらず口が悪い。いや、更に磨きがかかってないかこれは。
あァ、と取り敢えず頷いてやり、俺は中に入れよとスオウを招き入れた。相手は一言断りを入れ、つかつかと中に上がる。
神楽はまだ定春の散歩中だったなとぼんやり思いながら、ふと寝室の箪笥に向かう。座っとけ、と声をかけてから。

「万事屋か。お前らしい事してるな」
「だろ? 仕事はたまにしか入らねーが、それなりに気に入ってるぜ」

ゴソゴソゴソ。
話しかけてきたスオウに答えながら、目的の物を手に取り戻る。こっちを見ていなかったから、相手は俺が何を持っているのか知らない。
俺は奴の前に座り、持っていた物を目の前に差し出した。

「ほらよ」
「! これ、」
「お待たせしましたー。……あれ、銀さんそれ」

お茶を入れていた新八も戻って来て、スオウに渡していた物を見て口を開けた。

「あァこれ、コイツの刀なんだよ」

そう、俺が持っていたのは刀。
柄は赤を基調とした紋様があり、端には鈴が付いたサラシがくくりつけられている。紅を身に纏うコイツに相応しい、相当な業物だ。素人目から見ても。

何故これを、俺が持っていたのかと言うと――。

「そうだったんですか……だから定期的に刃を磨い」
「新八くぅーん? ちょっとお前出掛けてこようか、出掛けたまま家帰れ」
「……はいはい、分かりましたよ。スオウさん、ゆっくりしていって下さいね」
「あ、あぁ」

余計な事を言いかけた新八をさっさと追い出し、俺は改めてスオウに向き直った。
奴は呆けたように刀を見ていたが、はっと気が付き慌てて口を開く。

「銀が持っていたんだ……」
「おー、拾っといた。お前が見つかんねーから、骨の代わりにと思って……な」
「しかも手入れまで」
「だって、会えた時に泥と血塗れの刀渡す訳にはいかねーだろ」
「…………」

この刀は、村塾にいた頃――俺程ではなかったが、コイツが大切に持っていたものだ。大方家族の形見か何かだとは思っていたが、奴にとってそんなに大切なものを俺が持っていたのには理由がある。
あの日、俺が《白夜叉》を捨てる前日。桂と高杉、坂本と共にその時根城にしていた場所に戻ると、そこは血の海になっていた。
当時のそこの見張りは、スオウ。奴の実力は俺達全員が認めていたし、他の勢力は殆どが雑魚同然の場所だったから油断していたのだ。至る所に倒れていた奴の配下こそいれど、本人の姿は見付からず――この刀だけが見付かって。
スオウを置いて戦に向かった俺達は、後悔し――そして泣いた。
何故、コイツだけ置いていったのか、と。

守ってやれなかった悲しみと自分の弱さを身を持って思い知った。多分、それは《白夜叉》と呼ばれる事を止めた理由でもあるだろう。

「お前がソイツ置いて行くとは思えなかったんだ。死んだと思っても仕方ないだろ」
「……あぁ、すまん」

聞けばその時、スオウは敵の手により瀕死の重傷を負っていて、必死に逃げていたんだそうだ。刀はその時に落としてしまい、断腸の思いで置いてきたらしい。

「ま、何にしても……生きてて良かった。本当に」
「ありがとう。――お前も元気そうで安心した。桂や晋と違って、お前の話は全く聞かなかったからヒヤヒヤしていたんだぞ」
「はは、俺ァ早々に離脱したからな。今じゃ人畜無害の役立ち人間よ」
「嘘吐け」

こうやってけらけらと笑い合うのも、一体いつぶりだろうか。
俺は懐かしさで一杯だった。

日がもうすぐ暮れるという時間まで他愛ない話をしていると、公務がまだ残っているから、とスオウは帰る事にしたらしい。俺は表まで見送りに行った。

「また来いよ。何なら泊まりに来ても良いぜ、喰い盛りのガキが一人居候してっけど」
「あぁ、非番の時にでも」
「楽しみにしてるぜ。あ、ヅラに会いたけりゃ捜してくれよ」
「お前、私の職分かってるか?」

苦笑しつつ答えを返され、分かってんよ、と言い返す。

「でも、捕まえるつもりないんだろ?」
「……まぁ、な。私が戦う理由は、私の武士道を守る為だから。体面上は捕まえなきゃいけんが、非番の時まで追うつもりはないよ」
「ん。それで良いさ」

じゃあまたな、とスオウは手を振って道を歩き出した。