雪のなか(コウと莉結ちゃん)

しんしんと降り積もる、雪。

異世界でも幾度か見たそれは、触れると冷たく、『ひと』の体温であっさり溶けてしまう。
自身の掌に載ったものが溶けていくのを眺め、ふと視線を空に向けた。

どこまでも、どこまでも続いて行きそうな、否、吸い込まれて行きそうな。そんな空間が空に広がり、雪は際限なくそこから降りしきる。
自分以外、誰も存在しない空間。それが、あの分厚い雲の向こうには広がっているのだろうか。

「ーーあっ!! 見つけましたよ、コウさん!」

突然鼓膜に響いた声。
驚きながらもそちらを振り向くと、莉結が両眉を吊り上げ仁王立ちして、立っていた。淡い黄色のふわふわのマフラーに、茶色のコートを纏い、防寒対策はばっちりの姿で。

「コウさん、散歩から全く帰ってこないと思っていたら! こんなところで立ち尽くしてちゃダメじゃないですかー! ああ、手が氷のように冷たいです……!!」
「あ、ご、ごめん。すぐに戻るつもりだったんだけど、つい……」

ずんずんと歩み寄り、がしりと自身の手を掴んだ莉結は、今度は眉尻を下げ困った顔をする。
思ったよりも長い時間空を見上げていたのか、うっかりしていた。この分だとカナリアにも怒られそうな予感がしたが、しでかしてしまった事は仕方がない。
慌てて言葉を返すと、ぐい、と掴まれたままの手を引かれる。彼女の温かさがじわりと伝わってきた気がして、気が付けば温かい、と口にしていた。

その言葉を、彼女がどう受け取ったのかは、コウには分からない。莉結は一瞬動きを止め、それからふんわり笑う。

「お話は帰って、温かいお茶を飲みながらでもお聞きします。まだお店が開くまで、時間もありますからね」
「……はい」

このあと待ち受けているであろう説教を思い起こし、反省しつつ。
コウは莉結に引かれるままに、カフェへの道を歩き出した。