第16話 不思議な介入者

「所で、あの怪物……一体何だったのかしら?」

サエリが、今一番気になっていた事を口にする。
詳しく言わずとも、彼女が言いたい事は分かる。策略の碑に現れた、あの禍々しい狂気を放ち剣で斬りつけても血が流れず、普通の武器では倒せない怪物。間違いないのは、魔物とは別物だという事。

分かっているのは、ただそれだけだった。

「恐ろしい相手だったな。攻撃は最大の防御――それを物ともしないとは……。これ以降の旅で、奴に会わないという可能性はないに等しいかもしれん」

散歩から戻ってきていたクロスがその問いに応え、腕を組む。
今は夕方。セーレを発見してから、既に半日以上経っていた。

「武器で倒せないなんて……そんな敵、どうすれば良いんだよ!?」
「あの方の武器に、何か仕掛けがあるんでしょうか?」

むきぃ!と地団駄を踏むホルセルの隣で、リレスが頬に人差し指を当てて軽く首を傾げる。

助けに入った、青年の武器。
白く光る銃は、何処か現実離れした神聖な雰囲気を纏っていた気がする。

彼女が言っている事を察したのか、クロスも頷き宙を睨む。
まるで呑気に地上を歩く獲物を狙う鳥のように、鋭い視線の先には、あの怪物の姿が思い返されているのだろう。

「やはり、先に進む必要がある。この任務……一筋縄ではいかない気がする」
「全くだな! そんじゃ、明日も早いだろうし、オレは剣を手入れ……ああっ!?」
「どうしました?」

自身の武器を手に取ったホルセルが、馬鹿デカイ声で叫んだ。室内にいる全員が、何事かと耳を押さえる。
ホルセルは、武器を皆が見えるように掲げた。

「剣にヒビ入ってる!!」
「え」

確かに、大剣の中央辺りに、無視出来ない大きさのヒビが入っていた。丁度、先程の化物の刃を受け止めた辺りだ。
やはり、人間よりも強い力を持っていたのだろう。頑丈な物質を使っている武器にヒビを入れるとは、もしこれが人間だったらと思うとぞっとする。

「壊れなかったのが不幸中の幸いだな……」
「うっそー。これ以外、大剣持ってないのに」
「また買えば良いじゃない。……あ、もしかして、誰かから借りたやつだったりする?」

一瞬だけ暗くなったホルセルの表情から気が付いたのか、サエリが問い掛ける。
彼は力なく頷くと、

「……父さんの、形見。唯一の、な」
「……悪かったわ」

寂しそうな笑みを溢したホルセルに、悪い事を言ったとサエリが謝る。だが、彼は頭を振った。

「こうなったのは、きちんと手入れをしないオレのせい。それに、サエリは知らないから、仕方ないさ。にしても、どうすっかー」
「仕方ない。鍛冶屋に行くぞ」

うんうんと頭を悩ませ始めたホルセルに、呆れた表情のクロスが言う。
単純に考えれば、壊れた武器はその手のスペシャリストに預けるのが良い。ちっぽけな知識しか持たない素人がどうこうしていては、命を預ける武器として安心出来なくなる。

と、そこで手を上げたのが一名。クーザンだった。

「あのさ、俺の知り合いが弟子入りしてる工房が、この近くにあるんだ。親方さんの腕前も確か。多分、今からでもやってくれる」
「マジで!?」
「うん。それに、彼にも……セーレ兄さんを会わせたい。セーレ兄さんの事を知ってるからね」
「……フン。分かった」

ちらっと盲目の青年――セーレを見やり、ボソリと付け加え。
後者の言葉は、先程からずっとセーレに不審の目を向けていたクロスに向けてだった。
気付かれていないとでも思っていたのか、その彼は吃驚した表情をしながらも、不機嫌そうに頷いている。

クロスの警戒心の高さは、職業柄と生まれながら悪魔として蔑まれてきたせいだろう。それでなくても、悪魔族は何かと疑り深い。
ホルセルがあまり緊張感を持たない分、そっちの方が寧ろ釣り合いが保てているように思えた。

しかし、今度はそのホルセルが困った表情で口を開く。

「セーレさん、連れ出しても大丈夫かよ?」

幾ら怪我はリレスのお陰で治ったとは言え、彼女がいなければ本来ならまだ意識がない状態だっただろう。明日にはまた過酷な旅に出なければいけないのだ、体力的な意味では連れ回さない方が無難だ。
それに万が一、という事もある。

が、その問題も直ぐに消えた。

「大丈夫です。私も付いて行きますから」
「ちょ……リレス! アンタは留守番!」

リレスが同行を申し出るが、サエリが慌てて止めようと口を開いた。
さっきまでずっと、治癒魔法をセーレに使っていたのだ。精神力を結構使う魔法を長時間使用し、体が限界を迎えているはずの少女は、だがその気遣いを拒んだ。

「行かせて下さい。これ位、大丈夫ですから」
「いや、無理しなくても良いぜ?」
「大丈夫ですっ! 本当に大丈夫ですから、行かせて下さい!」
「……分かったよ」

結局、意外と諦めの悪いリレスの勢いに皆が折れ、鍛冶屋に向かうのはクーザンとホルセル、セーレとリレスの四人。
残された二人――クロスとサエリは、共に不機嫌になっていた。

国はとっくの昔に眠りに就き、何処の建物も明かりを消している。
たまに点いている部屋もあるが、それは夜遅くまで仕事をしているのか。
その明かりがまだらに明滅している町は、正に絶景だと言えた。まるで、星屑の散らばる空が地上に現れたような。

「何かあるのか?」

心配そうに窓の外を見ていたサエリに、クロスが問いかけた。手には紅茶が入ったカップを持っている。

「は? 別に何もないわよ? ただ、眠くないわねーと思ってただけ」

問いかけられた本人はビクッと肩を震わせ、だが気丈に振る舞う。発せられた言葉には僅かに苛立ちが感じられたが、それだけだ。
クロスは誰が、とは言わなかった。
だが、何の事なのか直ぐに分かったのだろう。だからこそ、誤魔化しにかかったのだろう。

彼は、一口飲んでから紅茶の入ったカップをソーサーに戻し、椅子から腰を上げる。
そっぽを向き夜景を見ているサエリは、そんな様子に気が付かない。

「そうじゃない。戦闘の時、やたら庇うだろう。今だってそうだ、おかしいと思わん方がおかしい」
「……気のせいよ? だって、魔法ばっかり使ってるから休ませないと、明日からに響くで――」
「嘘だな」

だんっ。

サエリは何時の間にか側に来ていたクロスに驚き、顔の直ぐ横の壁に置かれた腕を一瞥し睨み付ける。
互いの息が、直接頬に当たる位の距離。だが、この二人にとってそれは不愉快そのものだ。

「……何の冗談かしら?」
「眠らなければならないのは、貴様だろう。三日前から寝ていないと思うが」
「アンタストーカー? 何で知ってるのよ」
「……それに、彼女に対し過剰になり過ぎる」

実際、サエリは確かに寝ていなかった。
荒野での野宿では見張りを立てないと危険な為に寝れない時はあるが、昨日はアラナンの宿で床に就いていたし、ゆっくり寝れる環境はあった。

ストーカーかどうかは置いといて――断固否定したいが――、クロスは続ける。

「魔力の波が、安定していなさ過ぎる。魔法の使い過ぎが悪いと言うのは、俺達にとっても当てはまるはずだ。強情にも眠らないと言うのなら、強行手段を使わせて貰う」
「……へぇ? やってみなさいよ。その前にアンタを殺してあげるから」

にぃ、と力なく表情を歪め、サエリが言う。しかし、それは最初より幾分迫力がない。
何となく分かってはいたが、まさかこれ程自己犠牲心が強いとは……。

クロスは今日何度目か分からない溜め息を吐くと、精神を集中させた。

「何の為に近付いたと思う」
「は?」
「言っておくが、疚しい目的は全くない。確実に当てる為だ。安らかなる眠りの音色――<ドルミーレ>」
「っ! は、放せっ……」

何処からか特殊な音波が鳴り響き、サエリは耳を押さえようとするが、クロスに抑えられて腕を動かせない。男としては細い体躯に、油断していたらしい。

ズルッ……。

身体から張っていた力が消え、危うく倒れそうになる彼女の身体をすんでの所で受け止める。

悪魔の翼を背中に生やしたクロスの魔法により、多少抵抗はあったものの、サエリは眠りに落ちた。
安らかとは言えないが、やはりロクに眠っていなかったせいか、規則正しい寝息を立てている。

「全く、手のかかる一般市民だ」

流石に床に寝かせたままはクロスでも気が引けるので、彼女の寝室に運ぶ為に抱える。
悪魔の翼は、何時の間にか消えていた。

ドアに向かう際にテーブルの上の紅茶に気が付いたが、もう温くなっているだろう。
サエリを運んだらまた淹れ直すか……と、呑気に考えた。

「……こに、……るのよ……」
「! ……寝言か」

寝室の前の辺りで、眠っているはずのサエリが声を発した。起きたのかと思ったが、どうやら寝言らしい。
一瞬警戒した自分が馬鹿みたいだ。
しかし、自分がこの状態なのを本人に知られれば、彼女お得意の炎魔法が飛んでくるのは確実。
警戒は間違っていないだろう。

「アー……ク」
「……『アーク』?」

サエリの呟いた言葉を復唱し、そういえば、と思う。

クーザンが旅をしている理由は理解していたが、リレスとサエリがついてきている訳は知らない。
理由もなく進んで危険に身を投じるにはあまりにも不可解だし、何らかの理由はあるのだろうと予測はしていたが。
――そう言えば、彼女が呟いた言葉に、聞き覚えはあった。

「行方不明の、学生の名前……」

そうだ。
アーク=ミカニスと、レッドン=オブシディアン。
二人は親友だったと聞いているが、リレスとサエリが彼らと知り合いでもおかしくはない。
寧ろ、知り合いなら彼女らがついてきている理由も納得、といった所だ。

と、そこまで考えた所で、クロスは頭を振った。

「……よそう。こいつらとは、短い付き合いだろう……」

必要以上の肩入れは良くない。
放っておけなくなって、いざという時に足枷になってしまうから。

そのままサエリを寝室のベッドに寝かせ、クロスは部屋を出た。

ネオンがちらほらと見えるものの、人の往来はそこまで激しくもない、夜のアラナンの町。
殆んどの人間が眠っている建物の側を、クーザン達は歩いていた。
目的の場所は、直ぐそこだ。

工房は未だに灯りが点され、何か作業をしている音が響いている。軽く近所迷惑ではないのだろうか。
クーザンは門に付いているベルを鳴らし、中にいる人を呼ぶ。夜中にも関わらず出てきたのは、体格の良い若い男性だった。

「ハイハイ、どちら様? ――あれ、クーザン君じゃないか」

若い男性はクーザンと顔見知りらしく、彼を見ると驚いた表情を見せた。クーザンは軽く会釈をし、口を開く。

「こんばんは、ジュンさん。夜分遅くにすみません。ウィンタいる?」
「いるよ。ただ……、仮眠中だ」

言いにくそうに頬をポリポリと掻きながら言う男性だが、クーザンは直ぐに返事をする。

「大丈夫。起こすから」

ホルセル達から聞けば意味不明の会話を交わし、若い男性は一行を中に招いた。

廊下に並ぶ十個位のドアのうち、クーザンから向かって右側の、奥から三番目の部屋のドアに、『仮眠室』『鍵は閉めるな。使ったら元の状態に戻さないと半殺し』と書かれたプレートがある。
一枚目は兎も角、二枚目のプレートは書き換えるべきだと思うのだが。

「物々しいよ」

そんな誰かの突っ込みはさておき仮眠室のドアを開け中に入ると、二段ベッドが三個並べられている。
中央には背の低いテーブルが置かれ、その向こうに中位の大きさのテレビが置かれていた。
直ぐ横には、簡易式冷蔵庫もある。

今ベッドを使っているのは、一人だけだった。
規則正しい寝息を立て熟睡しているらしく、布団の隙間からは海の色に似た蒼い髪が見え隠れする。

クーザンはおもむろにその人間に近付き、布団を剥いだ。

そして力強く、耳が千切れるんじゃないかと思われる程強く――傍目から見ても恐ろしい程に、耳朶をつねった。

「起きろ」
「――――ってー!?」

耳を押さえて起き上がったその少年――ウィンタは、激痛によりまだ蹲っている。その様子を見ていた男も、感心した表情を浮かべていた。
ホルセルは、痛がるウィンタを見て自分の耳を押さえ込む。何故か痛くなったのだ。

「みっ……耳が……、耳が……」
「もう一発喰らう?」
「じ、冗談じゃねぇ! 勘弁してくれよ、クーザ……」

涼しい顔で訊ねたクーザンに向かって許しを請おうとしたウィンタだったが、誰に耳をつねられたのか思い出すと、固まった。
そう、本来ならクーザンはここにはいないのだから。

「……クーザン? クーザンなのか!? つか、何でこんなトコに!?」

その表情からは、友人に会えた喜びと何故ここにいるんだと言う驚愕が感じられたが、やはり前者の方が勝ったようだった。

「あー……ワケアリってやつで。取り敢えず、話を聞いて」
「ワケアリって……。って、何でラザニアルがクーザンと一緒に?」

ウィンタはようやくリレスに気が付いたらしく、もっと言えば一緒にいた三人に気が付いたらしく、クーザンに訊く。
流石は色んな人物に慕われるウィンタ、ちゃんと別のクラスであるリレスの事も知っていたようだ。

「それも含めて、話すから。その前に、良ければ厄介事頼まれてくれない?」
「いや、それは良いけどさ」

クーザンは取り敢えずホルセルとリレスだけを紹介し、大剣を直して貰えるよう交渉する。
ホルセルとしてはちゃんと代金も払うつもりでいたのだが、ウィンタは

「クーザンの友人から金なんて取れるか! 気にするな! こんな奴の友達になってくれた礼だ!」

と、彼の背中をバンバンと叩いて受け取りを拒否してしまった。クーザンに「こんな奴って何だよ」と突っ込みを入れられている姿を見ていると、本当に仲が良いらしい。
かなり痛いし申し訳ないのだが、厚意は有難く受け取っておけと言われてしまえば、それを了承するしかなかった。
ちなみに、あまり込み入った話にはいない方が良いだろう、とジュンには席を外して貰った。

話の本筋を説明するのはクーザンだったが、時折二人が横槍を入れたり、補足説明をしながら、ウィンタに全て話す。
彼は口を挟む事もなく、たまにクーザンやホルセルの行動に苦笑を浮かべながら黙って聞いていた。

「――て、訳」
「……うわぁ、何処のドキュメントだよ。信じられねー……けど」

ウィンタは立ち上がり、彼が寝ていたベッドの横にある棚を漁ったかと思うと、何かを取り出して戻ってきた。それを、黙ってクーザンに渡す。
怪訝そうにそれを受け取り、封筒をひっくり返して宛名を見る。

封筒には『親愛なるユキナの親友へ』と書かれており、一度開封された形跡があった。差出人は書かれていない。

「これ、ユキナの母さんからの手紙」
「!?」
「中には、ユキナが行方不明だから、何か知らないかって書いてあった。まさか冗談だろって思ったけど、お前の話を聞く限り……本当みたいだな」

ユキナと別れた日、ウィンタは既にここアラナンへ向かう道中に付いていたのだから、確かにこの手紙は驚き以外の何物でもなかったのだろう。
そして、ユキナの母親がこうして知り合いに手紙を送って来たと言う事は、彼女を心配しているに違いなかった。

「…………」

ひょっとしたら、自分の家にも手紙が届いているかもしれない――そう思いかけたが、その可能性は低いだろうと忘れる事にする。

「正直、アイツが何をどう考えて行方を眩ませたのか、オレには分からない。クーザン、お前だってそうだろ?」
「……そうだね」
「でも、行くんだろ?」

ウィンタの問いに、今度は躊躇わずに頷いた。
彼は暫くクーザンと目を合わせていたが、やがてはぁ、と息を吐くと、

「分かった。お前が捜しに行くって言うんなら、オレは止めない。寧ろ手伝ってやるさ!」

だから安心しろってー、と笑顔を見せた。そんな彼に、クーザンは微かに笑う。

二人を見ていたホルセルが、複雑な表情を浮かべている事には誰も気が付かなかった。

「あと、もう一つ」
「ん?」

問い掛けには返事を返さず、クーザンはセーレのマントを、顔が見えるように外した。
その瞬間、ウィンタの動きが止まる。

「……セーレ、兄? うわ、セーレ兄じゃんか!! 今までどこに……」
「……えっと……」

喜びを露にするウィンタだが、セーレの様子が少しおかしい事に気が付き、軽く困惑したような表情を浮かべる。

「策略の碑のある森の中で、倒れてたんだ。しかも、記憶喪失」
「あそこで? ……何で? 記憶喪失ってことは……」

アラナンに滞在しているウィンタにしてみれば、何故そんな身近な所で知り合いが倒れているのか、かなり不可解なのだろう。

「分からない。……ホルセル、これでこの人が俺の知り合いって信じてくれる?」
「っとー。まぁオレは疑ってなかったけど。後でクロスに言っとくよ」

ホルセルは両手を上げ、苦笑を浮かべた。
突然話を振ったせいか少しオーバーなリアクションを取っていたが、あまり気にしない事にする。
そして、ウィンタが一言。

「……クーザン。出来れば外れてて欲しい予想なんだが……。もしかして、ややこしい事に巻き込まれてる?」
「残念ながら当たってる」

冷静な声音でクーザンが返すと、ウィンタはやっぱりかー、とでも言うように項垂れた。
詳しく言い表すと、漫画で落ち込んだキャラの頭の上に引かれている直線が見えるかのように。

「いよしっ! じゃあ、もうこうなったらとことん手伝うよ。手始めに、ホルセルの大剣を直せば良いんだな?」
「お願いするよ」
「お安い御用!!」

じゃあ、クーザンとラザニアルとセーレ兄は、中庭でも行ってたら良いよ。
ホルセルは、色々と訊かなきゃいけないからここにいろよな!

ウィンタがそう提案し、クーザン達は中庭に向かった。
中庭にはここの主人が飼っている犬がいるそうで、ホルセルも非常に行きたかったが(大の犬好きである故)、残れと言われてしまった以上大人しく工房に残った。

「なー、これって何処で買ったん?」
「分かんね。何年も前に、オレの父親がオレにくれたんだ」

「手入れの方法はー?」
「乾いた布で簡単に拭いてる。それ以外あんまり……」
「時々水洗いして汚れをちゃんと落とさないと、持たないよ」

「何か、強い衝撃でも受けた? こんなヒビ、なかなか入らないよ」
「魔物の牙を思いっきり受け止めました」
「…………」

タタラの前に座って剣を扱うウィンタから時折質問され、律儀に答えていく。しかし、やはり初対面だからか、会話が続かない。
元々こういった対人での話は、あまり慣れていないのだ。何を話したら良いのか分からないし、何がどう相手に受け止められるかという不安がある。
と、

「ホルセルってさ、もしかして被害者?」

何の前触れもなく、そんな質問が飛んできた。
ホルセルは驚いて椅子ごと後退り、ウィンタを見る。
彼のその表情は、決してホルセルの行動を楽しむものではなく、真剣に話を聞こうとしていた。

「……どういう意味?」
「いや、別に深い意味は。ただ、ジャスティフォーカスの構成員が、クーザンみたいな一般市民と一緒に行動しているのを見たらさ、何となくそうかなって。……当たってたらゴメン」
「いや、気にしないでくれ。その通りさ。奴らに浚われた妹を、捜しているんだ」
「クーザンとは、何時まで一緒に行動するつもり?」
「んー……。オレは一緒について行っても構わないんだけど、相方がなぁ……。結構お堅い奴でさ、あまり人との関わりを持とうとしないんだ。だから、一概には何時まで一緒にいるかは分からない」
「そっか」

パチパチパチ、と弾く音が周囲に響き、沈黙になる。何か話すべきだろうか、と無意識に口を開こうとするのだが、やはり何を言えば良いか分からない。

そんなホルセルの苦心を察してか、ウィンタは鍛冶をする手を休め、振り返らずに声をかける。

「……ホルセル」
「ん?」
「オレの頼み、聞いてくんない?」

それから、数分後。

「っしゃー!! オレの大剣――っ!!!」

大声を上げて喜ぶホルセルの手には、新品同様に刃が輝く大剣があった。修理が終わったのだ。
大剣に修理を施した本人であるウィンタは苦笑を洩らし、ホルセルに言う。

「ちゃんと手入れをしてやらないと、刃も曇ってくる。いざという時に役に立たないと命に関わるんだから、手入れは忘れずにな?」
「ああ、ありがとう!!」
「助かったよ、ウィンタ」
「良いって事さ。……あ、クーザン」
「?」

とても喜んでいるホルセルを横目に、ウィンタは礼を言ったクーザンにも話しかける。
怪訝そうな表情をしたクーザンが振り向くと、何か言い辛そうに口をつぐみ、頭を掻いた。

あー、そのー、えと。

躊躇うように何度かそう呟いた後、意を決したように、ウィンタがクーザンに向かい合う。

「無茶は、するなよ。絶対、ユキナと一緒に帰って来い」
「……うん」
「次こそは、“約束”果たしてやるからな!!」
「楽しみにしてるぜ、ウィンタ」

この日、少年は大切な幼馴染と、大切な約束――いや、『誓い』を立てた。
何時の日か、また三人で、笑い合おうと。

しかし、彼は、知らない。
この日をきっかけに、大切な大切な“戦友”を、失ってしまう運命に流された事を。

NEXT…