沈んでく……。そんな、感覚がした。
精神世界と言えば良いのか。真っ暗な空間を、緑がかった白髪の青年が真っ逆さまに、緩やかに堕ちていく。
身に付けている軍服――あるいは喪服とも見える衣服の裾が、バサバサとうるさいくらいに音を立てている。閉じられたままの瞼からは、目を醒ます気配もない。
彼の堕ちる先には、地上などない。ただ、闇が道をつくっていた。
永久的に続くかと思われた時間が過ぎた頃、青年に変化が起きた。
閉じられた瞼が震え、僅かに開けられたのだ。翡翠のような美しい色をした瞳が、真っ直ぐ前を向いている。前には――底が見えない、永遠の暗闇。
『後は……頼んだ……。我の力が……たとえ妨げになろうとも……』
青年の唇がそう言葉を紡いだ瞬間、彼の身体が輝き始め、包み込むようにして彼を隠していった。
光が止んだ。
さっきの青年と瓜二つの青年――いや、青年と呼ぶには幼い。それに、髪の色が黒に変わっている。
彼は、さっきの者と同じように眠ったまま、闇の中に沈んでいった。
混沌とした、奈落へと。
運命は、規則正しくなど動いてはくれない。
古くなった歯車は動きが鈍るように、それもまた変動するものなのだ。
彼の運命は、ここから狂い始めた――。