罪を背負う二人

ツカツカと廊下を速足で歩くハヤトの前方に、人影が現れた。
見れば相手はイオスで、両手に重そうな本を抱えている。後ろから子供達が付いてきていたのを見ると、調べ物が終わったのだろうと察しは付いた。
彼は子供達に先に考古学室に行っていて下さい、と声をかけ、見送る。カナイも気を使ったのか、お先です、と残して行ってしまった。
あっという間に、その場にはハヤトとイオスだけになる。
妙な沈黙が下りるのを阻止したのは、イオスだった。

「……話したんですね、全部」

何を、とは聞かなかった。聞く必要はなかったし、それは野暮と言うものだ。

「あぁ。こうなりゃ、俺達だけで片付く話じゃねーからな」
「本当に……惜しい人達を亡くしました」

イオスが視線を下げる。
二人は彼とも仲が良かった。良く四人で馬鹿をやったりしていたものだが、と一瞬思い出に浸りかけ、軽く頭を振って考えを打ち消す。

「お前はどうすんだ。まだ隠したままにしておくのか?」
「……多分、墓まで持っていくと思いますよ。彼女らには教える必要がありませんし、幸せに暮らして欲しいですから」

よいせ、と抱えている本を持ち直す。
幸せになって欲しいと思うのは、イオスらしい。子供達を養っている身として思う事は同じ――だが、決定的にハヤトとは違う事がある。

「弱虫ですよ、私は。子供達の方が、余程強いでしょうね」

言おうとしていた事を先回りして答え、自嘲する笑みを浮かべるイオス。
彼女らに伝えたとして、返ってくる言葉が予想出来て怖い――言わない理由は、そんな所か。博識で聡明な頭脳を持つからこその、危惧。
呆れて頭を掻きつつ、ハヤトは彼とすれ違い様に言った。

「アイツらの事だ……お前がそう望んだとしても、真実を求める為に問いただしてくるぞ。何時か、必ず」
「…………。貴方も、酷い人ですね」

軽く手を上げながら消えゆく彼に再び微笑を零し、イオスは考古学室への廊下を歩き出した。ゴソゴソと懐を漁り、小さな手帳を取り出すと器用に片手で開く。
そこに挟まれていたのは、一枚の写真だった。

「こんな兄を許して下さいね、リダミニータ……」