親としての任務

「捜査長」

クロスは、大学を立ち去ろうとしていたハヤトの背中に声をかけた。
彼がゆっくりこちらに向き直ったので、恐らく自分の発言を待っているのだろうと判断し口を開く。

「我が儘を聞いてくれて、ありがとうございました。総帥や先輩達にまで迷惑をかけてしまい、本当にすみません」

言葉と共に、頭を下げる。

今回のジャスティフォーカス内部の動きは、ほぼクロスの独断と指示の元にあった。自身とホルセルを囮とし、敵の内通者であるマーモンをあぶり出す為の。

いかに空を司る神と言えど、裏を返せばクロスはまだ十七の子供。ただ指示をしただけでは、子供の戯言として軽んじられる危険性もあった。
だからこそ、ハヤトやビューに話を持ち掛け行動に至ったのだ。

彼はふ、と微笑を浮かべ、応える。

「阿呆、ガキの我が儘聞くのは親の任務だろうが。謝る必要なんかねーよ」
「しかし……」
「話を聞いた時は正直驚いたが、今まで俺に少しも愛想っつーもんを見せて来なかったお前が頼み込んで来たんだ。やってやるしかねーだろ」

クロスは一瞬、ハヤトが言わんとしている事を判断しかねた。それは、まるで彼が自分の親だと言っているような――。

その疑問に気が付いたのか、彼はボリボリ髪を掻きながら理由を説明した。

「まぁ何だ、俺がお前らの面倒見るようになってから、お前だけはずっと俺に懐かなかっただろ。正直、嫌われてると思っていたしな」
「……すみません」

そんなつもりはなかった。確かに普段から無愛想な自分を認識してはいた訳だが、ハヤトの前でそんな雰囲気を出していたかと問われれば答えは「NO」。ただ何時も通り、誰かに接するのと同じように話していただけだ。
それが、無意識下の行動だったなら話は別。その可能性を考慮したから、クロスは頭を下げる。

だが相手は、口に煙草をくわえたままへ、と笑った。

「だから、謝る必要ねぇっつの。お前が何者だろうと、俺の……アーリィとクレイもだな。俺達の子供である事に変わりはないんだからな。何かあったら遠慮なく俺を頼れ、良いな」
「……いえ、何時までも甘える訳にはいきませんので。最後まで自分で抗い、それで駄目だったなら頼みますよ」
「一人前に言いやがって。……期待しているからな」

そう言い残し、ハヤトは立ち去って行く。
入れ違いに現れたホルセルが「何話してたんだ?」と問い掛けてきたが、適当にはぐらかし部屋へと体を向けた。