00:二人だけの夜・前(プロローグ)

 シルバーフィールドの一族は、実験中の事故という不運な最期を遂げ失墜し、当主をも失い、自然と没落の途を辿っていく。歌うように紡がれていた言葉はそう締め括ると、その言葉の主は僅かに笑みを浮かべ、続けた。
「これが、今後の彼らの物語だ。俺から言えるのは、これだけだよ」
 周りでまさに燃え盛っている炎のような鮮やかな真紅が混ざった白髪の青年は、手に持っていた本をぱたりと閉じ、口元に引き寄せる。黒縁の眼鏡のレンズを通して、人のそれとは異なる畏怖の光を宿す瞳をこちらに向けると、くすりと笑みを浮かべた。
「彼らは人が辿り着ける究極の叡智を求め、世界を脅かすほどの行き過ぎた行為を執行しようとしていた。故に、『天罰』って奴が下ったのさ。奥様、いや……シルバーフィールド家の方々はね」
「……天罰」
「そう。ただ、俺も問答無用で一族すべてを滅ぼすことはしないよ。そんなことをしたら、ただの無差別犯だしね。それに……」
 不意に、そこで言葉が途切れる。暫くして、「いや、止めておこうか」と首を振る。彼が何を言おうとしたのか、何を言いかけたのかは、少年にはさっぱり分からない。だが、一瞬だけ見えた表情は、どこか悲しそうな感情を映していたようだった。
「――君は被害者だ。故に、俺は君を処分・・はしない」
 髪よりも鮮やかな色を讃えた双眸は、対峙する少年を映す。まるで青年の持つ眩しいくらいのあかとは程遠い、黒々としたそれを左腕に纏った幼い少年が、清浄なる炎によって断罪される光景のよう。だが、少年は飲まれるまいと強く、対峙する相手の瞳を見上げている。
「納得出来たかな? 『ロッカ=シルバーフィールド』」

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